大峰山寺・山上ヶ岳へ
早朝4時30分に目覚め、5時30分には宿を出発する。
前日夕方までは、正直な話、山歩きするか決めかねていたのだが、こうして最低限の荷物だけの軽装にして歩き始めると、自然に脚が動くのだから、フシギなものである。
「行者の道」ともいわれる登山口までの車道も、ひと気なく鳥のさえずりだけが響いていて、気持ちいい。
「女人結界」と大きく書かれた門をくぐると(山上ヶ岳は昔ながらの女人禁制の山なのです。ゴメンナサイ。)、杉木立の中を通り抜けて行く登りである。
想像していた通り、よく整備していた道で歩きやすい。どちらかというと汗かきな体質なのだけれど、ほとんど汗もかくことなく、標高を稼いでいける。
高くなっていく程に植生が変わり、木々の発する香りも変化していく。
比較的上の方の杉の間を歩いている時、アトラス・シダーウッドのような独特な「甘さ」の強い香りが漂ってきて、嬉しくなる。
1時間30分ほどの登りで稜線上つまり大峰奥駆道に出て、鐘掛岩や「西の覗」などの行場を経て
大峰山寺本堂に至る。
どんな想いでひとは、古くから続く奥駆道を歩いてきたことだろう…、それを感じながら一足一足歩いてみた。
私の感じですが−−歩くほどに、自分から何かが抜け落ちて軽くなっていく感じが、微妙にある。
あるいは私がそれを求めている、のかもしれませんが。
ひとの抱えた様々なものが少しずつ、こんな風に脱落して、軽くなっていけるといいなあ……。
山頂の「お花畑」といわれる開けた場所で、宿の奥さんに作って頂いたおむすびの包みを、開く
大きなおむすび3個に焼いたシャケ、昆布の佃煮や梅干しにお茶と飴まで付いた豪華なものである。
本当にありがたく感じられる。
次第に空が明るくなって、すっかり夏山の気候になる。
ほとんど行き交う人もなく、ひとりだけの山の、沈黙を愉しみながら下山する。
ここにこうして来るために、今回は旅してきたのだなあ…と、ひとり納得した。
五條バスセンターから夜9時5分発の夜行バスで、新宿へ帰る。