フェロモン学入門ーーコミュニケーションをタノシクする香り


●フェロモンとは
クレオパトラはバラの香りを贅沢に用いて、
アントニウスを誘惑したといわれます。
香りの歴史を振り返ると
……それは媚薬として使われてきた面が少なくない。


そして「フェロモン」と呼ばれる不思議な物質と香りの関連についても、
知りたくなることでしょう。


山元大輔氏「男と女はなぜ惹き合うのかーー『フェロモン』学入門」中公新書ラクレ
は、最新の行動遺伝学の立場から、
DNA(遺伝子)と人間の行動のついて、
「目からウロコ」の新鮮な見方をおしえてくれる本で、オススメです。


身近な語り方、親しみを感じさせる文体で、
「こんなニュータイプの学者さんも現われてきたんだな〜」と、
ウレシイ気持ちにもなります。
今月の「香りの旅からの便り」は山元氏の著作を手がかりにして、
「フェロモン」について私らしく私なりに、書いてみます。



まずフェロモンの定義はーー
「身体内で生産され、体外に排出されて同種の他個体に得意な行動を引き起こす物質」
(カールゾーン)
ということで、男女の関係に関わるだけではないのです。


赤ちゃんがお母さんのおっぱいをみつけるのも、
女性達が共同生活すると生理のサイクルが同調してくるのも、
フェロモンの働きです。


それは香りと関連してますが、
匂いとして感じられないことも多い。
男性の出すフェロモンANDは、男性の半数には何も感じられない…。
ANDはそれと気づかぬうちに女性の脳に働きかけ、
嗅いだ女性の心や身体に変化を呼び起こす。


そして女性が放つフェロモンESTは、嗅いだ男性が自覚せぬまま、
その男性の心や身体の状態を変える作用を発揮する。
フェロモンは匂いというより「情報」として、
ひととの間でやりとりされているようです。


私の「ワークショップ」 http://www.unfold.jp/ws/index.html や
新月と香りの会」 http://www.unfold.jp/newmoon/index.html でも、
参加者の皆さんとご一緒に香りを体験しながら、
香りを鼻でかぐことに、こだわらないで下さい」と、お話します。
香りを鼻でクンクンしてしまうのは、自然なことですが(笑)、
むしろ身体全体で、香りから伝わってくる「情報」や「バイブレーション」を
感じるようにした方が、
より豊かに幅広く感じ・あじわえるものです。


●ひととの相性にも関わるフェロモン
恋人選びや相性の善し悪しに関わるフェロモンも、あるそうです。
それはHLA(Human Lymphocyte Antigen)遺伝子と呼ばれる、
もともとは臓器移植の免疫反応の研究の中で、
発見された遺伝子なのです。


免疫反応の基本的な流れとしてーー
身体の中に異物(細菌やウイルス)が入ってくると第1段階として、
免疫系ではマクロファージ(大食細胞)と呼ばれる細胞が反応します。


マクロファージは異物を食べて飲み込み、
自分の細胞内でバラバラにし、
その異物の1部をMHCタンパク質にのせて、
まるで商店の看板のように、自分の細胞の表面上に提示します。


それは免疫系の細胞にとっては「攻撃すべきのろし」となり、
MHCの「看板」を目印に、
第2段階として白血球(T細胞やB細胞)が、
本格的な免疫反応を開始するわけです。


このMHCがヒトの場合は、HLAと呼ばれます。
つまりHLAによって、細胞ひとつひとつのレベルから、
「私」と「私でないもの(異物)」が区別されている(ワクワク!)


HLA遺伝子はひとそれぞれに違う型を持っていて、
それは”匂い”としても感知されている。
基本的にひとはHLA型の異なる相手の”匂い”を、
HLA型の似た相手の”匂い”より好ましく感じる傾向がある。


ただHLAにまるで共通するものがない男性の”匂い”よりも、
いくつか自分と同じ遺伝子アリル(▼遺伝子の部分です)
を持つ男性の”匂い”に、女性は好感を持つ
ーーとても興味深いことですね!!


ひとは相手との「差異」を感じることも、「共通性」を感じることもできる。
「共通性」は安心を感じさせてくれ、
「差異」は新鮮な発見や喜びを与えてくれるでしょう。
安心なだけでは、やがて「退屈」してしまいますし、
「差異」ばかりでは落ち着けない…。


自分と相手の間にある「差異」と「共通性」をバランスよく、
自覚的にみられることが理想ですね。



さらに言えばーー
「女性にとって自分の父親と同じ遺伝子アリルをいくつか持っている男性の”匂い”が、
まるで似たところのない男性の”匂い”よりも好ましい」p216


つまりひとが「どんな相手に惹かれるか」というのは、
ある程度DNAレベルで決まっている。
それは「共通性」あるいは「差異」を持ちつつ同時に、
女性の場合は「父親の匂い」を感じさせる相手に惹きつけられる……。


これを「香りならぬ香り」=香りとして感じられない繊細なレベルでも、
ひとは感受しているようです
ーー香りとフェロモンの深遠な世界。


もちろんDNAや本能がひとの行動の全てを決定するわけではないでしょうし、
DNAや本能と違うようにしたハズなのに……
結果的に本能にそった生き方になってしまう場合も、あるでしょう。



この本のエピローグで、山元氏はこう書いていますーー
「ヒトフェロモンをふりかけたといって、
異性に突如もてるようになることはなさそうだ。
ヒトフェロモンはもっと”品位のある”存在なのである。
あなたをソーシャライズ(社会化)してくれる」p249


そうですね。ひととの関係性や「場」、社会との関係において
「繊細なレベルで何が起こっているのか」
ーーここをより自覚的にみつめ・洞察することを、
香りやフェロモンは教えているのでしょう。


▼同じく山元大輔著「心と遺伝子」中公新書ラクレ も、お薦めですよ〜。