「オニババ化する女たちーー女性の身体性を取り戻す」を読む

オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す (光文社新書)
「オニババ化」というタイトルに、ちょっとビクッとさせられて、
手を伸ばしにくいかもしれない。
でもね、勇気を持ってこの小さな本を開いてほしいのです。
ネガティブな話題ばかりの今の社会ですが、
「もしかしたら……良い兆しも生まれてくるかもしれない」
そんな気分にさせられる本なのです。


●人生を深層で動かしている「何か」を、洞察する

「女としての性を生きたい」という身体のエネルギー・本能が、
女性の人生にはたしかに流れている。

生物としての女性は、子供を産み・次の世代を作り出すという究極の目的を持っているわけですから、
このエネルギー・本能を無視したり、使わずにいると、
さまざまな弊害が生じてくるようです。
これを三砂氏は「オニババ化」と呼んだのです。


月経不順、子宮内膜症子宮筋腫などの生殖器系のトラブル、
感情や気分のコントロールし難いほどの揺れ、イライラ、落ち込み
……これらの身体的・心理的症状や前更年期症状が、
多くの女性を深刻に悩ませています。


さらに、30歳前後から40歳前後にかけて起こる霊的な危機状態(スピリチュアル・エマージェンス)も、
ここに関連していると私個人的には考えています。
人生は、広い意味での「性エネルギー」によって、突き動かされている。
もしもこれにしっかりと向かい合うことができれば、
身体の声を聴き、自分をいとおしみ、
変容さえ遂げられるのではないでしょうか。


セクシャリティは、ひとの数だけある」と私は考えています。
その人なりの、自分なりの、セクシュアリティをみつけて・育てればいい。


排卵、月経そして「原身体体験」としての出産

この本は実に豊かな内容を持っていて、
たくさんのインスピレーションを与えてくれ、素晴らしいです。


「あるポリネシアの島では、以前、思春期のうちはほとんどフリーセックスだったそうです…が、この期間、女の子たちが妊娠することはなかったといいます。
しかし、『この人と結婚する』と決めたら、すぐに妊娠して子どもができた
…おそらくは『排卵を知る』ということが智恵として代々伝承されていたらしいのです。「自分のからだに注意を払う習慣がついていれば、排卵の日がわかる』
ということが伝えられていたのでしょう」p44


「もう70年以上も前のことです。
ほとんど完全にきものの生活であった当時、女性は
……ある程度自分で膣口を締めて月経血を止めることができた
……月経が始まるころになると、「子宮が満ちてくる」感じがするので、必ずわかる。そのような感じになると、ちょっと締めて、
月経血で服を汚さないようにするのだといいます。」p51


排卵も月経も、自律的にコントロールできる可能性があるーーということです。
私たちはいつから、「性」をまったく受け身なこととして、
みるようになったのでしょうか??


出産を「原身体経験」として、
人間の根っこになる経験としていることにも、注目したいですね。


「非常に豊かなお産を体験した女性は、
お産の前と後では人が違うのではないかと思うくらいに変革をとげます。
お産を通じて自分のからだと向き合えば、非常にインパクトのある経験として、
女性の人生の核となります
…自分はひとりではなくて、自然とつながっていて、
そこから力が出てくる、ということを感じさせるような経験です。」p86


「『宇宙との一体感を感じた』
『自分の境界線がないようだった』
『大きな力が働いてそれにつき動かされるようにゆだねていた」…など、
いわゆる心理学でいう『至高体験』に近いような経験をしています。」p101


三砂氏の専門である疫学的調査では、このような出産経験を「変革に関わるような出産経験」(Trnsforming Birthing Experience : TBM)と定義し、調査しているそうです。
ここまでポジティブな試みがされているという事実に、
驚ろかされてしまいます。


●香りを手がかりに、セクシャリティへの気づきを深める

身体に深く流れる性エネルギーを実感するには、
性生活を主体的に受けとめ、自身のライフ・ストーリーを省みる
ーーつまり、子供の頃の母親・父親との関係、
さらには祖母・祖父との関わり、
初めて意識した相手などーーことにもなるでしょう。


例えばアロマの世界ではーー
「チャンパ」(あるいはチャンパカ)という、独特な経験をもたらしてくれる香りがあります。
まろやかで甘く、花を感じさせる香りで、
バリ島やハワイなど南国では親しまれている植物です。


(男性である私には可愛らしい香りだな、くらいにしか感じられないのですが)
これに適性が合う女性にとっては
(香りは個人的な向き/不向きが、どうしてもあるものです)
チャンパをかぐだけで、えもいわれぬ深い官能を味わえるようです。


他にも(まだ調査中ですが)、男性・女性共にホルモンバランスにはたらくといわれる、
ブルー・タンジーやブラック・スプルースなどの、興味深い精油もあります。
セクシャリティへの自覚を実践的に深めるーーという面でも、
アロマは貢献できる
ものです。


●身体と本能に基ずく生き方に、やすらぎがある

『自分のことばかり話すお年寄りが増えている、と書きましたが、それは若い女性も同じです。
やっぱり、何か不安なのです。
自分は本当は誰にも受けとめられていなんじゃないか
……そんななかで、確固たるものとして自分が判断の基準にすべきものが、
からだの声、からだの経験というものでしょう
…私はとにかく自分のからだを整えることだけを考えれば、と思ってます。

……からだをゆるめるということです。
からだにこわばりがあって、均等性がなくなると、そちらに歪みが出てきて、
やっぱり言葉にも歪みが出てきます
…いつもからに力が入っていない、ゆったりした状態にしておくと、
自分を通じて流れるものが流れる」p241


最近いろいろな場面で、野口整体創始者 野口晴哉氏の影響をおもわせる表現に出会います。三砂氏の本も、そのひとつでしょう。
野口氏やその教えに共感する方達の意識の流れが、
長い時間をかいくぐって、今いろいろな方面で花開いているようで、ありがたいことです。


最後に、三砂氏のこの言葉をじっくりと味わってみたいのですーー
親になるということは『子どもに許される』ということ」p238


この「許す」とは、どういうことでしょうか??
子供である自分が、母と父をゆるすということ、
親である自分が(もしあなたが子供を持っていれば)、
子供からゆるされる、ということ。
「ゆるし」の果てに見いだされる「何か」がある…。